生産現場における時系列分析の利用方法

北海道東藻琴食肉衛生検査所でおこなっているデータ還元事業では、と畜検査データ(食肉検査データ)を時系列分析した結果を希望する生産者に提供しています。この時系列分析という方法を生産現場で生かす事例(フィクション)を紹介いたします。

まさおさんの悩み

Q町で養豚を営むまさおさんには、一つの悩みがあります。その悩みとは豚の肝臓が寄生虫性肝炎でいつもたくさん捨てられてしまうことです。これまで、床を消毒するなどいくつかの対策を施してきましたが、寄生虫性肝炎での廃棄数は、一時的に減ることもあれば、ほとんど増減しなかったり、ひどいときには増えたりしてしまうのです。そこで、専門書から得た情報により、次は駆虫剤を餌に混ぜてみることにしました。

駆虫剤で廃棄は減ったような気がするが・・・

やがて、駆虫剤を混ぜた餌で育てた豚がまさおさんの農場から出荷されるようになりました。食肉衛生検査所から送られてくる数値をグラフにしてみたところ、グラフは少し右下がりで廃棄率が減っているような感じもします。

廃棄率の推移

でも、まさおさんは半信半疑でした。「前にもこんなことがあったぞ。右に少し下がったからといっても、来月にどうなるかわからない。そもそもなにもしなくたってこの程度の増減(ばらつきと呼びます)は昔からあったような気がするぞ?」まさおさんはさらに悩みました。肝臓の廃棄率が偶然減少したのか、駆虫剤の効果で減少したのかなんとか区別することはできないだろうか。

まさおさんはいい方法を思いついた

豚を2つの群にわけて、片方には駆虫剤を飼料に添加し、もう片方には駆虫剤を添加しないという方法で、本当に駆虫剤が効いているのかどうか確認できることに気づきました。幸い、まさおさんの農場にはほとんど同じ設備を有するA豚舎とB豚舎を所有していたので、A豚舎には駆虫剤入りの餌を与え、B豚舎にはこれまでどおりの餌を与えることにしたのです。

2豚舎感での廃棄率の比較

豚を2つの群に割らないで済ませる方法はないのか?

V町で養豚業を営むあつしさんは、まさおさんと同じように寄生虫性肝炎の廃棄に悩んでいます。しかし、あつしさんの農場には肥育豚舎が1つしかなく、内部を区切って別々に飼育することも難しそうです。まさおさんのように「ベルヌーイ試行の誤差e」を計算する方法もまだわかりません。あつしさんは考えました。「もし、これまでの飼育方法をそのまま続けた場合にどのくらいの廃棄率になるのか、ばらつきも含めて予測できたなら、その予測値を駆虫剤なしで飼育した豚舎の値とみなして比較できるのではないだろうか? 問題は、そんな便利な予測方法があるかどうかだ。」あつしさんは、と畜検査をしている北海道東藻琴食肉衛生検査所に問い合わせてみたところ、3ヶ月先までの廃棄率の予測値を希望する生産者に教えてもらえるということがわかりました。そこで、あつしさんも駆虫剤を試してみることにしました。

廃棄率の推移と予測

東藻琴食肉衛生検査所では、最長12ヶ月分の過去の廃棄率に加え、向こう3ヶ月分の廃棄率の予測値を希望する生産者にお知らせしています。上のグラフは、9月にお渡しするもので、10~12月の値は、最大予測値(上方信頼限界)と最小予測値(下方信頼限界)です。あつしさんの豚の廃棄率が灰色の点線のように今後3ヶ月の間に推移すれば、単なるばらつきではなく駆虫剤が効いている可能性があると、あつしさんは推定することができるのです。

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