ウエンシリ岳について

ウエンシリ岳(西興部村)

 ウエンシリ岳は北見山地中央に位置する山で、標高1,142.3メ-トルとずば抜けて標高の高い山とはいえませんが、この山より北にこれだけの標高を有する山はありません。

 山名のウエンシリはアイヌ語で「悪い山」「険しい山」という意味で、その名のとおり地形は急峻で、深い谷と鋭く切れ落ちた尾根で構成されており、深く暗い谷には雪崩の雪がたっぷりと蓄えられ、9月になってもいたる所に雪渓(せっけい)が残っています。その名が示すとおり断崖が多く険しい山ですが、昭和53年に天塩岳道立自然公園に指定されてからは、登山道などの整備も進み、中央登山道ができてからは女性や小学生でも楽に登れるようになり、多くの登山者に親しまれています。

初冬のウエンシリ岳

初冬のウエンシリ岳

深く切れ込んだ山間の谷間

深く切れ込んだ山間の谷間

登山者で賑わうウエンシリ岳

登山者で賑わうウエンシリ岳

頂上付近の植生

 ウエンシリ岳頂上の下川町、滝上町側はハイマツに覆われ、ダケカンバが散生するのに対して、西興部村側は急斜面で小型化したウコンウツギ、ミネヤナギが多く、岩肌も露出しています。草木類はコイカガミ、エゾツツジ、ハクサンイチゲ、ミヤマキンバイなどが自生しています。

ハイマツ帯から望むウエンシリ岳

ハイマツ帯から望むウエンシリ岳

エゾツツジ

エゾツツジ -ツツジ科-

ハクサンイチゲ

ハクサンイチゲ -キンポウゲ科-

ミネヤナギ

ミネヤナギ -ヤナギ科-

ハクサンチドリ

ハクサンチドリ-ラン科-

ハイマツ帯の植生

 草原の斜面を過ぎると、登山道は1083峰に至る急な登り坂となり、1083峰付近は下川町登山道との合流点になっています。
この付近は典型的なハイマツ帯で、ハイマツ帯の中にタカネナナカマド、イソツツジなどが混生しています。
また、コケモモ、ゴゼンタチバナ、ミツバオウレン、ツマトリソウなどの林床植物が顔をのぞかせ、登山者を歓迎してくれます。

ハイマツ地帯から望むウェンシリ岳

ハイマツ地帯から望むウェンシリ岳

コケモモ

コケモモ-ツツジ科-

タカネナナカマド

タカネナナカマド-バラ科-

ゴゼンタチバナ

ゴゼンタチバナ-ミズキ科-

ミツバオウレン

ミツバオウレン-キンポウゲ科-

草原地帯の植生

 ダケカンバ帯を過ぎると、標高1,000メ-トルの稜線(尾根)にたどり着きます。稜線の西興部村側は急斜面に生じる雪崩などによって樹木の育ちが悪く、ヒメヤシャブシ、ウラジオタデ、エゾニュウなどが生え草原状態になっており、チシマフウロやエゾエンゴサクなどが見られます。一方、チングルマやツガザクラなどの雪田に生息する植物が見られないのは、急斜面で雪渓が遅くまで残る「くぼ地」がないためではないかと言われています。

標高1,000メ-トル付近の草原地帯

標高1,000メ-トル付近の草原地帯

稜線から見た西興部側の急斜面と草原

稜線から見た西興部側の急斜面と草原

エゾオヤマリンドウ

エゾオヤマリンドウ-リンドウ科-

チシマフウロ

チシマフウロ-フウロソウ科-

ミヤマオダマキ

ミヤマオダマキ-キンポウゲ科-

エゾリンドウ

エゾリンドウ-リンドウ科-

ダケカンバ帯の植生

 標高800メ-トル付近になると亜高山帯に入り、ダケカンバ、ミネザクラ、メイゲツカエデ、オオカメノキ、ウスノキなどが生えて、ダケカンバ帯をなしています。標高950メ-トル付近はハイマツ帯とダケカンバ帯の混成地帯となっており、これはウエンシリ岳の植生の特徴のひとつにもなっています。ダケカンバ帯の林床にはショウジョウバカマ、ハナヒリノキ、マイヅルソウなどが見られます。

中央登山道付近のダケカンバ帯

中央登山道付近のダケカンバ帯

ミネザクラ

ミネザクラ-バラ科-

オオカメノキ

オオカメノキ-スイカズラ科-

ショウジョウバカマ

ショウジョウバカマ-ユリ科-

ウスノキ

ウスノキ(カクノミスノキ)-ツツジ科-

針広混交林帯の植生

 ウエンシリ岳の低山帯は、常緑樹のアカエゾマツ、トドマツ、落葉広葉樹のホオノキ、シナノキ、ハリギリなどが生えて針広混交林をなしています。第一登山道側の針広混交林帯にはガレ場や岩場があり、北向きの岩壁にしがみつくようにイワヒゲが自生しています。また、登山道付近の沢まで続く急斜面の岩場などでは、モウセンゴケやコアニチドリなどの湿地の植物や、エゾカンゾウ、エゾスカシユリなど海岸に多い植物も見ることができます。その他の林床植物として、ミヤマスミレ、ツバメオモト、コイチヤクソウ、サンカヨウなどが生えています。ガレ場にはツルアジサイが這い、アジサイに似た花が登山者の目を引きつけます。

ガレ場付近の針広混交林帯

ガレ場付近の針広混交林帯

エゾカンゾウ

エゾカンゾウ-ユリ科-

イワヒゲ

イワヒゲ-ツツジ科-

サンカヨウ

サンカヨウ-メギ科-

ミヤマスミレ

ミヤマスミレ-スミレ科-

ツバメオモト

ツバメオモト-ユリ科-

参考文献

  • 鮫島純一郎ほか(1989)「新版 北海道の花」北海道大学図書刊行会
  • 大井次三郎(1975)「改訂増補新版 日本植物誌ー顕花篇ー」至文堂
  • 西興部村郷土館協力会「ウエンシリ岳の植物」

ウエンシリ岳の垂直分布

 同じ山でも標高が高くなれば気温が低くなるなど、高度により環境が変化し、見られる植物も異なります。これはその場所の環境に適した植物でないとそこに生息できないためで、この様子を植物の垂直分布といいます。

 ウエンシリ岳の垂直分布は必ずしもはっきりしているわけではありませんが、大きく区分すると図のようなものになります。標高950メ-トル付近はハイマツ帯とダケカンバ帯の混成地帯となっており、これもウエンシリ岳の植生の特徴のひとつとなっています。

ウエンシリ岳の垂直分布図

ウエンシリ岳の垂直分布図

※ 西興部村郷土館協力会「ウエンシリ岳の植物」より引用

標高950メートル付近のハイマツ帯とダケカンバ帯の混成地帯

標高950メートル付近のハイマツ帯とダケカンバ帯の混成地帯

アクセスなど

フィールド紹介

 標高1,142.3mのウエンシリ岳は100種類以上といわれる高山植物が咲き誇り、晴天時の山頂からはオホーツク海や遠く大雪の山々を望むことができる

所在地

北海道紋別郡西興部村字上藻

アクセス

車を利用。
道道137号雄武遠軽線~村道上藻乙号線~広域基幹線林道ウエンシリ札滑(さっこつ)線を利用。中央登山口まで12km、第1登山道及びキャンプ場まで7km。

施設

キャンプ場あり。駐車場(無料)50台、トイレ、炊事場1カ所、バンガロー1棟(無料)、キャンプファイヤー施設

地図

ウエンシリ岳の地図

詳細地図

ウエンシリ岳の詳細地図

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